薪ストーブを設置する際、欠かせないのが「炉台」と「炉壁」です。
これは、火の粉や熱から床や壁を守るための大切な設備です。
今回は、この炉台と炉壁を「大谷石(おおやいし)」という天然石で施工しました。
この記事では、大谷石の特徴と、実際の施工工程、そして完成した様子までを詳しくご紹介します。
大谷石とは?
栃木県が誇る天然石
大谷石は、栃木県宇都宮市の大谷町周辺で採れる火山岩の一種です。
およそ1500万年前の火山活動によってできた「軽石凝灰岩」という種類の石で、古くから日本の建築や石材に使われてきました。
特に関東地方では、蔵や塀、門柱などに多く使われています。

大谷石の主な特徴
軽くて加工しやすい
大谷石は見た目に反してとても軽く、加工しやすいという特徴があります。
乾燥時の比重はおよそ1.7※で、これは他の石材に比べてかなり軽量です。
たとえば御影石の比重が2.6程度ですので、作業時の負担が少なく、建材として扱いやすい石といえます。
※ 出典:宇都宮市観光協会「大谷石資料館」
耐火性と蓄熱性に優れる
大谷石は火山由来の石であるため耐火性が高く、燃えたり変形したりすることがありません。さらに、蓄熱性にも優れています。
蓄えた熱をゆっくりと放出する性質があり、炉壁に使用した場合、薪ストーブの熱をじんわりと空間に伝える効果が期待できます。実際、同じ空間に設置された大谷石の炉壁は、ストーブを消したあとでも数時間暖かさを保ってくれるのです。
温かみのある風合いと独特の質感
淡いグレーや薄茶色のやわらかな色合い、そして表面の細かな穴(気孔)は大谷石特有のものです。
なお、切り出し時は淡い緑色ですが、時間の経過とともに茶色、さらに白色へと変化していきます。自然素材ならではの経年変化も魅力の一つです。
この風合いが和風・洋風どちらの空間にも自然に溶け込み、薪ストーブのある空間に温かみある印象を与えてくれます。
炉台と炉壁の施工工程
それでは、大谷石を使った炉台と炉壁の施工工程をご紹介します。
施工にはおよそ5日間を要しました。
1. 通気層の確保
薪ストーブを設置する際、壁との間に「通気層」を設けることが推奨されています。
通気層を設けることで熱がこもらず、空気の流れによって自然に冷却される仕組みになっています。この仕組みで、万が一の過熱による火災を防ぎ、安全性が高められます。
今回は壁から約30mm、炉台と炉壁の直角部分に約10mmの隙間を取り、上昇する空気の通り道をつくることで、熱が壁材に直接伝わらないようにしました。


さらに、今回は吸気用ダクトを床側に施工するため、炉台施工と併せて準備を進めました。
2. 下地材の施工
通気層の上には、不燃性の下地材を取り付けます。
今回は耐火パネルとして「軽カル板」を使用しました。板の厚み12mmで、施工性と耐久性のバランスが取れています。
床部分は、薪ストーブと大谷石の重量をしっかりと受け止められるよう、構造を補強しました。さらに耐熱性を確保するために同様の下地パネルを敷いています。吸気ダクトもあるので、その部分は板をくり抜きました。

3. 大谷石タイルの貼り付け
次に、大谷石のタイルを「乱貼り」という手法で貼り付けていきます。
乱貼りとは
さまざまな大きさ・形状の石をランダムに配置することで、自然な印象を与える貼り方
石の厚みは約20mm、サイズは100〜300mmほどの不規則なものを使用しました。
今回、目地(石と石の隙間)は埋めずに仕上げます。

1.接着剤を塗る
下地材に、タイル用接着剤を薄く塗ります。
今回目地は埋めないので、隙間から見えても浮かないよう、灰色・白色を選択しました。


2.タイルを貼り付ける
端から一枚一枚タイルを貼っていきます。
今回は、水平面を最初に貼り、その後垂直面を貼り付けました。

万一にも落下しないよう、最後にビスで固定します。
タイルを貼り付けた後にビスを直接打ち込んでも、うまくビスが入らないため、貼り付ける前にビス用の穴をドリルで開けておきます。

貼り付けた後、さらにビスを打って固定します。
タイルがまだ動くので、大きくずれないように注意しながらゆっくりとビスを打ち込みます。


遠目から見るとあまりビスは目立ちません。
正面部分は、そのままだと下地材やタイルの側面が見えてしまっていたので、側面にもタイルを貼りました。
一手間ですが、正面向きにタイルを貼ることで、パッと目に入った時に統一感が生まれました!


空気層・下地材・大谷石タイルと層になっています。
3.空気層を確保する
下地材にも空気層を設けていますが、大谷石のタイル下部にも空気が出入りできるよう、わずかに隙間をつくりました。薪ストーブに最も近いスペースなので、薪ストーブの熱が蓄熱する以外の余分な熱を逃せるようにしています。

隙間は2〜3mmで、大谷石のタイルの高さを揃えながら、パッキンを挟んで調整します。
タイルが固定されるまで、パッキンはそのままにしておきます。

床面にある吸気口には、この後カバーを装着します。
大谷石のタイル貼りで感じたこと
配置の難しさ
乱貼りは一見簡単そうに見えて、全体のバランスを見ながら配置するセンスが求められます。1枚1枚をどこに配置するか、石の表情のバランスや印象をみながら組み合わせます。
そこが自然素材ならではの難しさであり、趣が出る楽しさでもあります。
サイズ調整
施工スペースにピッタリとはまるよう、サイズ調整も必要でした。
施工場所でサイズを測り、屋外で切断…微調整でまた切断…
なかなか骨の折れる作業でした。
施工に時間がかかる
まるでパズルのような作業で、作業中はかなり根気が必要です。作業自体は難しいわけではありませんが、一つ一つを調整する必要があり、施工には時間がかかってしまいます。
しかしその分、仕上がりの味わいは格別です…!
4.他の自然素材との相性
今回は、炉壁の上に飾り棚のオーダーもいただいていました。
大谷石の優しい印象に合うよう、色味のあまり強くないクリを配置しました。
無垢のクリ材に自然塗料を塗布して、木肌を目でも楽しめるよう仕上げています。
また、耳付き板なので形に動きがありますが、大谷石と合わせても違和感がありません。
大谷石も無垢材も、どちらも経年変化がある素材です。
長く使用していただきながら、唯一無二の空間を演出してくれたらいいなと思います。

完成した炉台・炉壁の様子


ソールズバリー8(チェスニーズ)
完成した炉台と炉壁は、薪ストーブの存在感を引き立てる美しい仕上がりになりました。
大谷石の柔らかな色合いと自然素材ならではの質感が、空間全体に落ち着きと温もりを与えてくれます。
実際に薪ストーブを焚いてみると、大谷石がじんわりと暖まり、火が消えた後もほんのりとしたぬくもりを保ってくれていたのが印象的でした。
暖房効率だけでなく、視覚的にも「火のある暮らし」をより豊かにしてくれる素材だと感じました。
まとめ
大谷石は、日本の風土に合った天然素材でありながら、薪ストーブ周りに求められる「安全性」「耐火性」「蓄熱性」などの機能も兼ね備えた優れた石材です。
施工には多少の手間と時間がかかりますが、その分、完成した空間は格別な魅力を放ちます。
薪ストーブの導入を検討されている方、また炉台・炉壁にどんな素材を使うべきか迷っている方にとって、大谷石は非常におすすめできる選択肢です。自然素材に囲まれた、安心で快適な薪ストーブライフをぜひ体験してみてください。
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